前回の続きです。芸術体験を共有する手段として香りを利用する場合、どういった活用ができそうかについて考えてみます。
基本的にはアート作品をイメージさせる香りを発生させてそれを楽しむという形態で、作品自体に香りをつけるか、空間そのものに香りをつけるかを選択することになると思います。
ここでヒトの嗅覚の仕組みをちょっと確認しておきます。
ヒトがにおいを感じるのは、においに対する受容体ににおいの成分となる分子が刺激を与えるからです。受容体は鼻腔内の嗅粘膜に嗅細胞というのがあるのですが、その先端に10〜30本ある繊毛(医学的には線毛とするらしい。私も線毛で習った気がする)に存在します。
つまりヒトの目には見えないけどごくごく小さい物質がにおいの元で、香りをこちらでコントロールしようとする場合、この物質をどこかから持ってくるなり作るなりしないといけないということになります。
ただこの物質は必ずしも現物のにおいとは限りません。例えば、バラの香りの商品が発売されているとき、バラそのものが入っているのではなく、Geraniolというバラに似た芳香を持っているモノテルペノイドを使用するといった具合です。
アートへの利用を考えた場合、もし作品を表す香りを持った物(花や食べ物など?)があっても、直接現物を持ちこめなかったり、香りが次第に変化してしまうようなものよりは、「〜っぽい香り」の物質を作って用いるのが良いのかなと。
ただ展示の問題として、1つの空間に同じ芸術家の作品があるのか、多数の芸術家の作品があるのかによっても変わってきます。作品ごとに違う香りをつける場合、隣り合う作品との兼ね合いが大事で、香りの強さ、ある程度の間隔をあけることが必要になってきます。
音の場合も同じですが、目に見えないものをプラスする場合、いかに競合させずに協和させるか重要になってくるかと思います。
嗅覚は他の感覚に比べて比較的長い時間私たちの記憶の中で記憶を維持できるらしいとのことですが、例えば昔懐かしい香りといってもひとつひとつ鮮明に覚えているわけでありませんし、作品っぽい香りをひとつひとつ作っていくよりは、全体の作品を通してイメージされる香りを展示室という空間で体験した方が、「ひとつの香り」が「誰とどこへ何を見に行った」という記憶として鮮明に残るのではないかと考えます。
アートからは離れますけど、家の香りというのも利用できそうな気がします。普段は気に留めていなくても、病院や老人ホームなどでの生活を余儀なくされた場合、部屋が家の香りになるだけで落ち着いて生活できる、ということもあるのかなぁ・・・と思ったり。
参考:
ビジュアル生理学(2011/07/19)
http://bunseiri.michikusa.jp/
日系ビジネス 「香り」「匂い」をカタチにするとどうなる?(2011/07/18)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20100827/215998/
日本化学物質辞書web weblio学問 geraniolの項目(2011/07/19)
http://www.weblio.jp/content/geraniol
Wikipedia 繊毛、線毛の項目(2011/07/19)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B9%8A%E6%AF%9B
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B7%9A%E6%AF%9B
0 件のコメント:
コメントを投稿